今回のテーマは「がん治療中の犬に漢方薬をどう使う?」です。
犬にとってがんは身近な病気です。犬の平均寿命は長くなる傾向にあり、その分がんへの罹患率は上がってきています。
そのためがんにかかった場合は動物病院で適切な治療を受けることが大切ですが、治療に伴う不調を和らげる手段として「漢方薬」という選択肢があることを知っておいて損はありません。
今回はそんな「がん治療中の不調」「抗がん剤の副作用対策」によく使われる漢方薬をご紹介していきます。

この記事の作成者:Office Guri 諸橋直子
日本ペットマッサージ協会認定 ペット東洋医学アドバイザー、JADP認定中国漢方ライフアドバイザー、SAE認定犬の管理栄養士アドバンス、JADP認定上級ペット看護士。
手作りごはん歴19年。犬の手作りごはん、アロマテラピー、薬膳など家庭でできる愛犬のケア普及のため活動しています。各種オンライン講座開講中。特に人気の犬の薬膳講座は受講者数250名を超える。犬の手作りごはんの専門Youtubeチャンネル(登録者数4,120名)運営中。
「がん治療中の不調」「抗がん剤の副作用対策」にどんな漢方薬が使える?術後の体力回復を助ける「大建中湯(だいけんちゅうとう)」
開腹手術後の腹痛や吐き気などの消化器症状を減らす方剤として
●大建中湯(だいけんちゅうとう)
が注目され、用いられています。
「大建中湯」はお腹の血流を良くし、消化器の働きをよくする目的で使用される漢方薬です。
配合されている生薬は
・乾姜(かんきょう)
・人参
・山椒
です。
「乾姜」は生姜を湯通しまたは蒸したもの、つまり一度加熱したものを干した生薬で、血行を良くし特にお腹周りの冷えに伴う痛みを解消する目的で用いられます。
「人参」はオタネニンジンという種類の人参で、特に全身が弱っているときに滋養強壮、体力回復目的で使用される生薬です。
「山椒」は胃腸を温める目的で使用される生薬です。
*生薬として漢方薬の中には適量の成分が使用されていますが、これは食品として犬に山椒を与えて良いという意味ではありません。手作りごはんなどで山椒を誤って与えることのないようご注意ください。
このように配合されている生薬を見ると
「なるほど、お腹を温めて胃腸の動きを良くするための方剤なのだな」
とわかります。
「虚証」向けの方剤なので、術後などで体力がない状態の犬への使用に向いています。開腹手術後は胃腸の働きが低下するため、それに伴うトラブル防止のため、人間の手術の後でも良く用いられる方剤です。
抗がん剤の影響による「口内炎」に。「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」
また抗がん剤による影響で口内炎ができる場合があります。そんな時には、
●半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
が用いられる場合があります。
「半夏瀉心湯」は下痢や軟便、口内炎、胸やけまで幅広い胃腸の不調に対応する漢方薬です。
・半夏(はんげ)
・黄芩(おうごん)
・黄連(おうれん)
・甘草(かんぞう)
・大棗(たいそう)
・人参
・乾姜(かんきょう)
が使用されています。
みぞおち付近の痛み、吐き気に作用する生薬が多く配合されており、特にストレスによる症状に効果的とされます。口内炎の治療にもよく使用される方剤です。
「甘草」を含むため、副反応に注意が必要です。獣医師に処方された場合は用法用量を守り、経過を見守ることが重要となります。
*「甘草」を使用した方剤の副反応については過去記事で解説しています。
「【3】薬の副作用をできるだけ抑えたい場合に選択できる漢方薬がある。」の項目を参照してください。
治療の影響による様々な不調に
また病気そのものや治療の影響で体力が低下している、食欲不振など様々な状況に応じて選択できる漢方薬があります。
例えば、体力低下、抵抗力の低下には
●補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
●十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)
●人参栄養湯(にんじんえいようとう)
などが用いられます。
「補中益気湯」は滋養強壮作用のある「人参」、胃腸の働きを良くする「生姜(しょうきょう)」や「陳皮(ちんぴ)」、血行を促進する「当帰」などが用いられています。
生命を維持するエネルギーである「気」が消耗し、枯渇した状態である「気虚」に用いられる方剤で胃腸を元気にし、食事から栄養素とエネルギーをしっかり取れる状態に回復させる目的で使用されます。
人間のがん治療の場合でも、術後の回復や治療の副作用による全身倦怠感などの軽減に活用されています。
「十全大補湯」は疲労、衰弱状態にある犬の気力と体力を補うのに適しています。病後、術後の体力低下に持ちられますが、著しく胃腸虚弱な場合には適さないことがあります。
獣医師と相談の上、適切な方剤を選ぶことが必要です。
「人参栄養湯」は体力が低下している場合の全身状態を改善する目的で使用されます。「補中益気湯」「十全大補湯」と同じように、体が弱っている時に回復を助ける「補剤(ほざい)」として用いられる方剤ですが、特に咳などの呼吸器症状がある場合に適しています。
現在治療中の病気に「プラス」して、併用できるのが漢方薬の強み。
いかがでしょうか?がん治療の際、西洋医学的な治療と併用して利用される漢方薬をご紹介しました。
すでにここまでお読みいただいてお気づきの方も多いと思いますが、がん細胞を無くすための治療が西洋医学の領域だとすると漢方薬は治療からの回復を助け、体力をつけるという役割に徹しています。
実は漢方薬はこのように
「弱った状態からの回復を助ける」
「胃腸を元気付けて食欲を回復することで、全身状態を改善する」
「血行を良くすることで、不快症状を和らげる」
といったサポートが非常に得意です。
現在治療中の犬の場合は使用しているお薬との兼ね合いもあるので、担当の獣医師とよく相談の上適切な漢方薬を選んでもらいましょう。
漢方薬の知識を持つと、愛犬の生活の質を上げることにつながる
これまでシリーズ記事で「犬への漢方薬利用」についてお伝えしてきました。
飼い主さんが漢方薬について知識を持っていると、それだけで犬が抱える健康上の問題を解決したり、軽減するための手段を増やせます。
また現在は元気な犬でも、老齢期を迎えた際様々な健康上の問題に直面することがあるかもしれません。
そんなとき「漢方薬」という選択肢を持っているだけで犬の生活が楽になったり、症状が和らいだり、ストレスとうまく対応できるようになります。
漢方薬には非常にたくさんの種類があります。種類が豊富ということは、それだけたくさんの選択肢があるということで、愛犬にピッタリな漢方薬がある可能性が高いです。
しかしながら、それを「選ぶ」となると実はそう簡単ではありません。
もちろん獣医さんにお任せでも良いですがすでにこのシリーズ記事でお伝えしたように
「より愛犬にぴったりな漢方薬選びをするためには、一番身近で犬のことをよく知っている飼い主さんの観察眼」
が重要です。
飼い主さんが家庭で、愛犬を「漢方の診断法」に基づき観察する。そこで気づいたことを、動物病院で獣医師へ正確に知らせる。この「家庭での状態を正確に伝える情報提供者」としての飼い主さんの役割が非常に重要なのです。
ではそのような「家庭での状態を正確に伝える情報提供者」になるためには漢方の何を学べば良いのでしょうか?またどういう順番で知識を学べば良いのでしょうか?
この大切な「学び方」について次回の記事で詳しく解説します。ぜひ楽しみにお待ちくださいね。
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