犬に漢方薬

犬への「漢方薬」利用に興味がある方へ。

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Office Guriの諸橋直子です。

さて今日から数回に分けて「犬の漢方薬」をテーマにメルマガをお届けしようと思います。

というのは、以前から何度かメルマガでこちらの書籍をご紹介しているのですが、非常に多くの方がクリックして書籍の詳細を確認されているからです。

『獣医版フローチャートペット漢方薬 実は有効!明日から使える!』 新見正則著

犬に漢方薬って使えるの??

とびっくりされる方から

愛犬のこういう体の悩みに漢方薬はどうかな

と漢方薬を実際に検討したいという飼い主さんまで、漢方薬に対する興味の度合いは様々です。

ひとついえるのは、実際に漢方薬を処方する獣医師は増えていること、犬の漢方には注目が集まっており漢方の考え方に基づくペット用サプリや、ふりかけなどの副食製品も増えていることです。

というわけで読者の皆さんの関心も高いことから、犬の漢方薬使用についてこれからお話ししていきます。

あなたはどんな悩みで、犬に漢方薬を使ってみたいと考えていますか?
なぜ犬に漢方薬??漢方が今、注目される理由。
漢方薬選びに重要な「証(しょう)」についての考え方。

この記事の作成者:Office Guri 諸橋直子
日本ペットマッサージ協会認定 ペット東洋医学アドバイザー、JADP認定中国漢方ライフアドバイザー、SAE認定犬の管理栄養士アドバンス、JADP認定上級ペット看護士。
手作りごはん歴19年。犬の手作りごはん、アロマテラピー、薬膳など家庭でできる愛犬のケア普及のため活動しています。各種オンライン講座開講中。特に人気の犬の薬膳講座は受講者数250名を超える。犬の手作りごはんの専門Youtubeチャンネル(登録者数4,120名)運営中。

あなたはどんな悩みで、犬に漢方薬を使ってみたいと考えていますか?

漢方薬についてお話しし始める前に確認です。ここまで読んでくださっているということは、

  • 犬の漢方薬使用に興味がある
  • 漢方薬を使ってみたいと思う理由=何かしらの悩みや問題を抱えている

と言う前提で、これ以降お話しさせていただきます。

ちなみに、先ほどご紹介した

獣医版フローチャートペット漢方薬 実は有効!明日から使える!

では、以下のような疾患に対する漢方薬が紹介されています。

・目の疾患
・耳の疾患
・風邪症状
・鼻の疾患
・消化器症状
・先天性巨大食道症
・皮膚疾患
・関節炎
・循環器疾患
・腎疾患
・内分泌疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症)
・がん
・認知症・老化
・元気がない

いかがでしょうか?

これらの中に当てはまるものはありますか?少し考えてみてくださいね。

さて上記のような悩みに漢方薬を利用できることを前提に「なぜ犬に漢方薬が良いのか?」について、基本的なお話ししていきます。

なぜ犬に漢方薬??漢方が今、注目される理由。

そもそもなぜ、今犬の漢方薬治療に注目が集まっているのでしょうか?

人間の病院の場合、8割以上の医師が漢方薬を使用しているという調査結果があります。多くの場合は保険適用です。人間は漢方薬の恩恵を受けていますし、ドラッグストアでも気軽に漢方薬を買うことができます。

つまり人間たちは漢方薬の良さを知っているわけです。なので犬の体調不良にも漢方薬は使えないだろうかと考えるのはごく自然な流れです。

では漢方薬の「」がそんなに良いのでしょうか?

以下に漢方薬の持つ3つのメリットをご紹介します。

【1】はっきりした病名はつかないけれど体調が悪い
 そんな時に使える漢方薬が多い。
【2】長引く皮膚トラブル、下痢、便秘などの慢性疾患にも使える漢方薬が多い。
【3】薬の副作用をできるだけ抑えたい場合に選択できる漢方薬がある。

ひとつひとつ見ていきましょう。

【1】はっきりした病名はつかないけれど体調が悪い、そんな時に使える漢方薬が多い。

何となくだるい、食欲不振、元気が出ない、朝起きるのが辛い、このような

病院で検査もいろいろしてみたけれど、はっきりした病名がつかない

といった症状で困っているとき、選択できる漢方薬が複数あるのは体調不良を抱える人にとってはありがたいことですよね。

ポイントとしては病気の可能性を考え、はじめに医師の診察を受けることです。その上で病名のつかない体調不良に漢方薬を用いる。これが大事です。

漢方薬は体全体のバランスを整え、元気にすることを目的とする処方が多いのも特徴です。

例えば「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」は胃腸を元気にし、体力をつけたい時の定番です。

漢方のベースとなっている中国の伝統医学=中医学では、胃腸は食事からエネルギーと栄養を取り出す大事な臓器として扱われ、虚弱を考える際は特に胃腸の健康が重要視されます。

補中益気湯」の「中」はズバリ「お腹=胃腸などの消化器」の意味です。

胃腸を元気にして食事の中に含まれる栄養やエネルギーをしっかり活用できるようにするために、用いられるんですね。

【2】長引く皮膚トラブル、下痢、便秘などの慢性疾患にも使える漢方薬が多い。

長期間続くトラブルでなかなか改善しなくて困っている場合にも、漢方薬は複数の選択肢を持っています。

例えば皮膚の強い痒みに悩まされている場合、漢方では

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」

が選択肢に挙げられます。

黄連解毒湯」は体内にこもった熱を冷まし、火照ると悪化する強い痒みや炎症に用いられる方剤です。

皮膚病には様々な原因があり、西洋医学的な治療が第一選択肢です。特に細菌が原因で炎症を起こしている場合、抗生物質などの使用が必須ですし効果も高いです。

そのため適切な薬を使用しながら漢方薬を併用し、体質改善とストレス面でのケアを漢方薬でと上手に使いこなすのがおすすめの姿勢です。

西洋医学的な治療は即効性があり高い治療効果が見込めるものですが、慢性の皮膚病のように治るまで長く時間がかかる場合もあります

漢方薬は長引くトラブルを体質改善などの長期的な視点で考え、ストレスなどもケアしながら体のバランスを整えるのが得意です。

なのでこの2つを対立的に捉えたりどちらが優れているかなど、優劣で考えるのはおすすめではありません。

両者の良いところ、逆に不得意なところを飼い主さんが理解しうまく使いこなす

●「二者択一」ではない「良いところ同士のミックス」へ

が、愛犬の健康を守る新しい考えとしておすすめです。

【3】薬の副作用をできるだけ抑えたい場合に選択できる漢方薬がある。

薬に副作用はつきものです。これは西洋医学の薬でも、意外かもしれませんが漢方薬も同様です。

薬である以上、漢方薬にも副作用はあります。この事実をしっかりと初めに理解した上で、漢方薬を利用することが大切です。

ただし副作用の程度には違いがあります。

西洋薬は効果が高い分、ものによっては強い副作用が出る場合があるのに対し、漢方薬は複数の生薬をブレンドしたものであるため1つ1つの薬効成分の量そのものが少なめです。そのため漢方薬で急激に強い副作用が出ることは稀です。

とはいえ、以下の生薬には注意が必要です。

麻黄(まおう)
附子(ぶし)
大黄(だいおう)
甘草(かんぞう)

麻黄は血圧を上げる作用があります。附子は大量に摂取すると、お酒に酔ったような症状が出ます。大黄は排便を促す作用があるため、場合によっては下痢になります。

甘草は「偽アルドステロン症」という症状を起こす場合があります。これはむくみ、発疹、かゆみ、下痢、食欲低下などの症状として現れます。

ただしこれらの副作用が漢方薬で出るのは麻黄、附子、大黄、甘草を大量摂取した場合、またはかなりの長期間摂取した場合です。

そのため犬の体重や体の状態に合わせた量を守っている限り、基本的に安全性には問題がないといえます。

西洋薬と漢方薬にはこのような違いがあるため、西洋薬の副作用が心配な場合によりおだやかに身体に働きかける漢方薬が適しているケースがあります。

【まとめ】

漢方薬にも副作用はある。ただし多くの場合、長期摂取や大量摂取によるもので容量を正しく守っていれば、安全に使用できる。

漢方薬の副作用については、これで正しくご理解いただけたかと思います。

では次に、漢方薬選びで重要な「(しょう)」についてみていきましょう。

漢方薬選びに重要な「証(しょう)」についての考え方。

漢方薬選びには「(しょう)」を正しく捉えることが大切です。

漢方のベースとなっている中医学では、体のどこかがバランスを崩し働きに歪みが生じたためにそれが病気の症状となって現れると考えます。

そのゆがみがどこで発生しているのか、何がゆがみを生むのか?を犬の体と心に丁寧に寄り添い、明らかにしたものが「」と呼ばれます。

漢方薬はこの「」に基づいて処方されます。そのため「」を正確に捉えることがとても大切なんですね。

なのでこの大切な「」について解説していきます。

」をみるために、中医学独特の観点に基づいて犬の状態を観察します。中医学では体の状態に合わせて薬や治療方針を決めます。そのため一見同じに見える症状でも、原因が異なれば選択する漢方薬や治療法が全く違うことも少なくありません。

そのためただ表に現れている症状だけで漢方薬を選ぶのではなく

体のどこにバランスの崩れが出ているのか?
その元となっているトラブルの原因は何か?

を丁寧に観察し、捉えることが重視されます。

というとものすごく難しいことのように思えますが、漢方薬初心者の方でもある程度、愛犬の「」を捉えられるようになる指針があります。

ではその指針とはなにか?

基本となるのは「陰・陽」と「虚・実」です。

それぞれ解説していきましょう。

「陰・陽」は病気に対する反応の性質を表す

健康な状態では「陰・陽」のバランスが取れており、周りの環境に適切に対応できると中医学では考えます。

これが例えば体が「」に傾くと、寒がりで常にストーブの前に陣取り動けない、逆に「」に傾くと暑がりで冬でも薄着を好むという具合になります。

そのため

うちの子は寒がりで
我が家の犬はとにかく暑がりで

といった一見何の変哲もないような情報が、実は漢方薬選びでは重要なサインとなることが少なくありません。

下記に「陰・陽」のバランスチェックリストを挙げておきます。愛犬がどちらにより当てはまりそうか、ぜひ確認してみてください。

【あなたの愛犬は陰?それとも陽?】

「陰」タイプ
・寒がりで常に暖房の前から動かない
・ホットカーペットなど温かいものを好む
・歯茎の色が薄い
・体温が低め
・舌の色が薄い
・脈がかすかで遅い
・便が強く匂わない
・消化不良による下痢をする
・薄い色の尿が頻繁に出る

「陽」タイプ
・暑がりで涼しい場所を好む
・冷却シートなど冷たい場所を好む
・歯茎の色が赤い
・体温が高め
・舌が赤い
・脈がすぐに触れ、速い
・便が強く匂う
・しぶり腹の下痢をする
・尿の色が濃い

」タイプは体の反応が低下した状態と言えます。風邪を引くと寒さが来るタイプが「」です。

逆に「」タイプは病気に対しても活発に体が反応します。風邪を引くとがつん!と高熱が出るタイプは「」とみなされます。

いかがでしょうか?何となく「」タイプ、「陽」タイプのイメージが掴めたでしょうか?

次にもう一つ、大事な「」である「虚・実」についてみていきましょう。

「陰・陽」は体力や、病気に対する抵抗力を表す

陰・陽」はその犬の体力や病気に対する抵抗力、そこに起因する病気への反応の程度を表します。

」は体力がなく、虚弱な状態を指します。病気に対する抵抗力も反応も弱い状態です。そのため病気になっても反応が激しく現れません。

一方「」は体力が充実しており、病気への反応も激しいタイプです。

愛犬が「虚・実」どちらに当てはまりそうか?は以下のリストを参考にしてください。

【あなたの愛犬は虚?それとも実?】

「虚」タイプ
・体格が華奢である
・体力がなく、疲れやすい
・鳴き声が弱い
・下痢をしやすい
・病気の時に症状が弱く、穏やかである

「実」タイプ
・体格ががっしりしている
・体力があり、疲れにくい
・鳴き声が力強い
・便秘をしやすい
・病気になると症状が強く、激しく出る

虚・実」どちらとも言えない場合は「虚実間証(きょじつかんしょう)」に当てはまります。

いかがでしょうか?愛犬はそれぞれどの証に当てはまりそうでしょうか?ぜひ一度リストを参考に考えてみてください。

ちなみになぜこの証が大事かというと例えば

犬の湿疹・皮膚炎

を考える際、皮膚の状態と証の組み合わせだけで、選べる漢方薬が10種類以上の多岐に渡るからです。

え!そんなに選択肢が多いの?

とびっくりされた方もいると思いますが、丁寧に犬の状態と証を探っていくとそのくらい細かく分類できるということなのです。

もっと言えば、より愛犬にぴったりと合った漢方薬を選択できるということなのです。

また皮膚病についていうと、漢方薬は現在利用中の西洋薬と併用できます。またアトピー性皮膚炎などの皮膚症状は、ストレスとの関連も指摘されています。そのためストレスに着目し、イライラを和らげるような漢方薬も選択肢として挙げることができます。

皮膚トラブルという目の前に形として現れている症状に加えて、精神面でのバランスの崩れにも対応できる漢方薬がある点が漢方薬を選択する大きなメリットとも言えます。

いかがでしょう。漢方薬を選ぶ際の「」の重要性はご理解いただけましたか?

」に対する知識があれば、動物病院で漢方薬を希望する際獣医師により正確な情報提供ができます。

こうした知識を飼い主さんご自身が持つことによって愛犬に最適な漢方薬を選ぶ助けとなるのです。

次号の記事では、実際に愛犬に漢方薬を利用する方法についてお伝えします。

飼い主が知識を持つメリット — 獣医師と協力するプロになる

をテーマにお届けします。

犬の漢方薬は獣医師に処方してもらう必要があります。

私たち人間はドラッグストアで漢方薬を購入し利用することでができますが、犬はそうはいきません。獣医師の処方が必要なのです。

「じゃあ飼い主は漢方薬を処方できないから、知識だけあっても意味ないのでは…」

とがっかりした方がいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。

漢方薬に関する知識は愛犬の治療において「獣医師の協力者」、つまり「愛犬専属のプロフェッショナルサポーター」になるために必須スキルです。

家庭で一緒に長い時間を過ごし、愛犬のどんな小さなことでも知っているのは飼い主さんです。獣医さんは病気を診るプロですが、診察室で使える時間には当然ながら限りがあります。

その限られた時間の中で、何の情報もないまま犬の体の状態を知るには当然ながら限界があります。

もちろん診察ですからその限られた時間内で獣医さんはベストを尽くしてくれますし、処方に必要な情報を集めることはしてくれます。

しかしながら、飼い主さんからのより細やかで診断の助けとなる情報がある方が犬にとってより良い、より助けとなる漢方薬を選択できる可能性が高まるのは明らかです。

飼い主さんが獣医師への「的確な情報提供者」となることで愛犬の治療の質が上がり、快適な生活を送る助けとなるのであれば、飼い主さんが必要な知識を学ぶ重要性は疑いがありません。

飼い主さんの知識が、愛犬の診断の質を上げるのです。

この知識をどう身につけるか、どう獣医師へ伝えるかなどを次回の記事で解説していきます。ぜひ楽しみにお待ちください。

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