老犬

老犬の適正体重維持という問題 | 食事の視点から考える

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犬の管理栄養士アドバンスの諸橋直子です。今回のテーマは「老犬の体重管理どうしていますか?」。老犬になると、太る、それとも痩せる?それならば、適正体重の維持のために、何をすべきなのでしょうか。これらについて、読者の皆さんと一緒に考えて行こうと思います。

我が家の16歳が「痩せてきた」

我が家には16歳の老犬がいます。黒い方が老犬です。

目も耳もかなり衰えてきていますが、トイレに行きたいときは「ジャンプして」知らせてくる元気な犬です。(静かに庭に続くドアの前に立ってくれればそれとわかるのですが何故か黒い犬だけジャンプします。他の犬たちはそっと立ち、こちらを見ます)

ただ、ある時期から目に見えて痩せ始めました。ちなみに私の知る範囲内でも、14歳を過ぎた老犬は若い頃に比べて痩せている事が多いです。それでも心配なので動物病院で定期的に検査をしていますが、出たのは「特に病気ではない。ただ、体重はもう少し増やした方が良い」という結果でした。これを受けて、さてどうしたものか、と考え資料をあたったところ、以下ような記述を見つけました。

人の研究結果では,高齢者のエネルギー消費は低下しており,その理由は主に2つある。まずひとつが,かなり個人差があるものの、活動全体が低下している。次に,除脂肪体重が低下し,そのために基礎代謝率が低下している。

犬猫でこの仮説を支持するような定量的な結果はまだほとんど得られていないが,2つの研究から,犬の平均1日エネルギー摂取量が年齢とともに低下することが示されている。

これらの所見を見ると、それぞれの犬種ごとに差はあるものの,犬の年齢が共通項となっている。したがって,肥満を防ぐのに,高齢犬は若齢犬より食事のエネルギーをさらに低く抑えなければならない,というのもうなずける。

しかしこれは,高齢犬用の食事のエネルギー密度を下げるということではない。高齢動物は食欲があまりなく,少量しか食べない傾向があるからである。例えば動物病院を訪れる12歳の犬の16%が痩せているが,肥満しているのは5%だけであった、という報告もある(Kronfeld et al., 1991)

コンパニオンアニマルの栄養学 | I. Burger | インターズー | 1997

除脂肪体重」というのは、体から脂肪を除いた重量を指します。ここに書かれていることを言い換えるなら、高齢者の体重減少は、脂肪以外の組織(筋肉など)が減ることが原因であり、そのため基礎代謝も低下する傾向がある、になります。

基礎代謝が低下、さらに活動全体が低下すれば消費エネルギーは、少なくなります。これはすなわち、若い頃と同じ食事量、同じエネルギーを摂取していると肥満になる、という意味です。

では、実際にはどうなのでしょうか?書籍は「必要なエネルギー量も減ると同時に、高齢犬は食欲も落ちる傾向がある」と述べています。さらに「肥満している犬は痩せている犬よりむしろ少ない、という報告もある」とも言っています。

ここまでが、本から得られた「老犬に一般的に言えそうな傾向」についての知見です。では、これらを踏まえて「我が家の犬」の場合は、どう考えたら良いのでしょうか?

痩せた老犬の体重を増やすには?

我が家の老犬の場合、若い頃と比べると一度に食べられる量は減りました。しかし、食欲はあります。なので最初に思いついたのは「食事量を少しずつ増やしてみよう」です。具体的には、食事+1品。バナナを1/2本足す、りんごを1/4個、などです。

しかし、犬は喜んで食べるのですが、戻してしまう時もあります。与えるタイミングが悪かったのかと考え、食事と食事の合間、空腹時も試しましたが、結果は同じでした。

こうして我が家の老犬は、「本人に食べる気はあるが、胃腸が一定量以上は受けつけない状況」だとわかりました。これは、かなり困りました。本人は、痩せていますが元気です。でも、すでに述べたように動物病院からは「もう少体重を増やしましょう」と言われています。一体どうしたらよいのでしょう?

胃での滞在時間が短い「飲み物」はどうだろう?

食事の「」を増やすと胃が受け付けない我が家の老犬。でも食欲はあるので、「食べたい!」という気持ちが若い頃同様あるのがよい点です。そこで考えました。「液体」は胃の通過時間が早いのが特徴です。それならば、ある程度カロリーの高い飲み物を与えてみてはどうだろう?

そこで我が家が選んだのは「牛乳」です。

牛乳には適度なタンパク質、カルシウムなどが含まれています。100mlで64kcalと、エネルギーも適度にあります。何より、毎日の飲み水の一部を牛乳に置き換えるだけなので、胃に負担もかかりません

ここで「犬に牛乳を与えてはいけないのでは?」と思った方がいるかもしれません。しかし、牛乳でお腹を壊すのは、乳糖不耐症か牛乳アレルギーを持つ犬です。これらの症状はすぐにわかりますし、そうした犬に牛乳を与えてはいけません。

我が家の犬の場合、牛乳でお腹は壊しません。そのため、栄養補給を兼ねて、様子を見ながら適度に飲ませているというわけです。

犬に牛乳を与える是非については、こちらに詳しくまとめてあるので、興味のある方は参考にしてください。

老犬といっても、犬によって健康状態は様々です。そのため、老犬に「一般的に見られる傾向」を知った上で、「我が家の犬の場合はどうか?」を個別に考えることが必要です。

老犬の食事全般についてのアドバイス

以下、老犬の食事についての一般的なアドバイスを挙げます。ご自身の犬の状況にあわせて参照してください。

一度に食べられる量が減ってきた
→ 小分けにして回数を増やす。

食欲が衰えた
→ ドライフードはお湯でふやかす、手作りごはんはごま油を足すなど「香りがたつ」工夫で食欲をそそる。

食事を飲み込みにくそうにしている
→ 食事全体にとろみをつけると飲み込みやすくなる。食器台を使用し、下を向かずに食べられるようにすると、改善する場合もある。

歯が衰え、噛む力が衰えた
→ ドライフードを「小粒」に変える、手作りごはんは材料を、より小さめに切る。

タンパク質は「質」を重視
→ 体内で利用効率の良い、アミノ酸スコアの高い食材(肉、魚、卵類)を意識して摂取。

抗酸化作用のある成分を含む食材は、老犬にも良い
→ ビタミンA、C、Eは体内で抗酸化作用を発揮する。この3つを組み合わせて摂取すると相乗効果が期待できる。

食事は「適正体重維持」に影響します。もし、老犬になってから体重が増加し、減量する場合は「筋肉を落とさず、絞るなら体脂肪」を意識する必要があります。老犬は筋肉が他のライフステージと比べて、落ちやすい傾向にあります。太り過ぎで減量するなら、筋肉は維持し、脂肪を燃焼させます。

老犬期を快適に過ごすために、適正体重維持を

老化は不可逆的ですが、健康管理次第で、老犬期を良い状態で過ごすことができます。そのためには「適正体重維持」も必要です。犬の状態に合わせて対応しましょう。

この記事は犬の健康基礎情報を学ぶ「ぐり通信」のバックナンバーです。
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