犬の管理栄養士、Office Guriの諸橋直子です。
犬のごはんといえばフード。我が家は現在、盲導犬パピーケイン君のお腹の調子に合わせて手作りごはんで対応していますが、盲導犬パピーという性格上、最終的にはフードオンリーの食事でもお腹が大丈夫な状態にまで育てて協会へ送り出す予定です。
そもそも世の中のほとんどの犬たちがフードを食べている事実を考えると、私たち犬の飼い主はフードについて詳しく知っておいて損することはありません。加えてフードについて知っていると、犬の体調管理のあれこれを、フードの成分表をみながらある程度考えることができるようになります。
我が家の盲導犬パピー;ケイン君が手作りごはんを食べるようになったのは、ある時期からフードのみの食事だと夜中に便意を催し、朝起きるとケージの中が悲惨なことになっているからです。便の状態もあまり良くなかったため
色々試した結果、暫定的に手作り100%で現在ケイン君は暮らしています。
では一体、フードの何が我が家の場合は合わなかったのでしょうか?
お腹の不調はフードが原因?を検証してみた
ちなみにフードがお腹に合わないのをどう検証したか?というと
- フード100%の日
- フードと手作り半々
- 手作りにフードをトッピングする
- 手作り100%
を比較しました。
結果、
- フード100%は100%下痢、
- フードと手作り半々でも下痢、トッピングでも下痢、
- 手作り100%だと良い状態の便
とはっきり分かれましたので「あー、フードが合わないんだな」と淡々と事実を受け止めた次第です。
ちなみに本当に赤ちゃんの頃は同じフードでも下痢にはならず、お腹の調子も良かったです。それが成長に伴いフードの量を増やしたら下痢が始まったので「あー、フードが増えたから、合わないものの絶対量も増えたんだな、何だろうな」と考え、フードの成分をチェックすることから始めました。
フードの成分表をチェックしてみた、合わないのはこれ?
早速フードの成分表をチェックしてみました。
そこで目をつけたのが「粗繊維」。ざっとみた感じ、便通を良くするために不溶性食物繊維の割合が高めのフードだったためこれが悪さをしている可能性を考えて、獣医さんに相談してみました。獣医さんいわく「繊維が多いと下痢をする子と便秘をする子に分かれる」とのことで、繊維の許容量も成長に伴い増えるかもだから、繊維少なめの食事にしてみて成長を待とうという話になりました。
とさらっと書いてますが、これ実はフードのラベルを読む知識、そして栄養学の基礎知識の合わせ技のおかげで、比較的早く方向性が決まっています。もしこうした「フードの基礎知識」「栄養学の基礎知識」がない状態だと「なんかフードが合わないんだけど、何が合わないかがよく分からない」と悩むことになります。
そして実は過去、犬を初めて飼い始めた頃の私は全く同じことで悩み、解決策がわからず非常に困っていたのです。何よりこの「フードがどうも合わない、でも何が合わないのかさっぱりわからないし、どう対応すべきかもわからない」という悩みは、意外と多いのではないでしょうか?
フードについて知ろう!まずは成分表の見方から
というわけでフードで困っているならば、まずはフードについて知ってみませんか?が今回のメールの結論です。そしてフードについて知るには、まず成分表を眺めてみることをおすすめします。成分表をみるとそのフードの特徴がわかりますし、もしフードが犬に合わないと悩んでるなら何か改善のヒントが見つかるかもしれません。
では成分表には一体何が書かれているのでしょうか?
参考までに、実際我が家で利用しているパピー用フードの成分表をご紹介します。
- タンパク質:30.0%以上
- 脂質:19.0%以上
- 粗繊維:4.0%以下
- 灰分:10.5%以下
- 水分:10.0%以下
- カルシウム:1.5%以上
- リン:1.0%以上
- 亜鉛:125mg/kg以上
- ビタミンE:100IU/kg以上
- セレン:0.5mg/kg以上
- DHA:0.10%以上
- EPA:0.05%以上
- オメガ3脂肪:0.70%以上
- オメガ6脂肪酸:3.60%以上
- 代謝エネルギー:380kcal/100g
「以下」「以上」の表記があります。これは何を意味しているのでしょうか?実はフードの成分表は「保証値」の考えに基づき表記されています。「以上」という表記は、エネルギー源になる、身体を作るといった、メリットのある成分に使用されます。上記の例でいうと「タンパク質:30.0%以上」「脂質:19.0%以上」「カルシウム:1.5%以上」などですね。
大事な成分なので、「最低限◯◯%は入っています」と数値を保証しています。これが保証値です。実際には31%かもしれないし、32%かもしれません。でも29%では絶対ありえない。これが保証値の考え方です。
逆に「以下」はフードにとってデメリットになる、またはメリットが特に無い成分の表記に使われます。上記の例でいうと「灰分:10.5%以下」「水分:10.0%以下」の2つです。水分はドライフードにとっては明らかにデメリットです。水分が多いとカビ発生の原因となるからです。ドライフードは長期保存が前提の食事なので、常温でも一定期間長持ちさせる必要があります。そのため、ドライフードと表記するには水分10%以下であることが前提条件です。
以下はペットフード協会の公式サイトからの引用です。
”製品水分10%程度以下のフード。加熱発泡処理された固形状のものがほとんどです。水分含有量が13%以上では、カビが生えたりするので12%以下に保つ必要があり、安全性に配慮して多くは水分含有量10%以下となっています。”
引用元:ペットフードの種類| 一般社団法人ペットフード協会
https://petfood.or.jp/knowledge/kind/
このようにペットフードの分類には、成分量もしっかりとルールがあることを、」この機会に知っていただけると嬉しいです。
「灰分:10.5%以下」の「灰分」は食品を焼いて残る灰という意味です。燃えて灰として残る成分の多くはミネラル類です。鉄、カルシウム、ナトリウム、マグネシウムなどですね。これらは犬の身体にメリットをもたらすものも多く含まれますが、灰分の比率が高まるとフードの消化率が低くなります。そのため「上限は10.5%、それ以上は入っていません」という表記となるわけです。
ところで「灰分」を表記しておきながら、それとは別に「カルシウム:1.5%以上」と表記するのは矛盾しているのではないかと感じた方もいるかもしれません。「カルシウム」は良いイメージを持たれている栄養素です。そのため良いものが入っていることをアピールするのは、商業用の製品として普通のことだと思います。
こんな風に成分表示の読み方が少しわかるだけでも、フードについて読み解けることは多いのです。なのでもし興味のある方は、現在利用中のペットフードの成分表を眺めてみてください。
フードの気になる「原材料表示」ってどう見るの?
フード選びの際、「原材料表示」をチェックする方も多いと思います。そしてこの「原材料表示」、細かい字でたくさん書かれている上に普段見慣れないものが結構入っていて、よくわからなくて不安になるという声もよく聞かれます。
実は「原材料表示」にはルールがあります。このルールを簡単に知るだけでも、ずいぶん「原材料表示」がわかりやすくなります。なのでその基本ルールをここではのぞいてみましょう。
大事な基本ルール:表示は「原材料」を重量の割合の多い順で
「原材料」はそのフードの中でたくさん使われている「重量順」で表記されています。下記は我が家で利用しているフードの「原材料」表記から一部抜粋したものです。
”チキン(肉)、チキンミール、大麦、オーツ麦、玄米、鶏脂、ポテトタンパク、ビートパルプ、タンパク加水分解物、ラムミール、サーモンミール、モロコシ、亜麻仁、エンドウタンパク、フィッシュオイル、ココナッツ、チアシード、乾燥卵、トマト、ケール、パンプキン、ホウレン草、ブルーベリー、リンゴ、ニンジン”
この順でいくと、「チキン(肉)」が最も多く、次がチキンミールです。この「ミール」は誤解が多い材料なので、ここで「ミール」について解説しておきます。
チキンミールとは?
チキンミールは鶏肉を加工する際に出る、骨とその周辺についた取り残し肉、いわゆる鶏ガラと内臓などを高温で加熱し、脱脂、乾燥、粉砕して粉状にしたものです。タンパク質を60%前後、油脂を12〜15%含みます。乾燥させてあること、そして含まれる栄養素比率が一定であることが大きなメリットです。
なぜならドライフードは基本的に粉状の材料の水を加えて練りあわせ高温で圧をかけ、発泡させて作るのが基本だからです。肉などの生の原材料は、そこに含まれる成分は一定ではありません。他方、フードはどんな成分をどの割合で含ませるべきかが決まっています。そのため含有成分の量にゆらぎがある生の原材料だけを使おうとすると、フード製造の工程がそれだけ複雑になりますし、コストもかかります。
そんな時、粉末状で成分が安定しているチキンミールは大変便利な存在です。チキンミールを加えることで成長期や授乳期の犬の特殊な栄養要求に応えるフードを製造できますし、コストも抑えることができます。特にタンパク源としては優秀です。
またチキンミールはペットフードの材料としてだけではなく広く家畜飼料として使用されています。豚、鶏、養殖魚の飼料として認められており、チキンミールを食べて育った豚肉や鶏肉、魚を私たち人間は日常的に食べているわけです。
「いや家畜とペットを同列に語られても…」と思う方もいるかもしれませんが、もしチキンミールが本当に粗悪なもので動物の健康に影響を与えるようなものであれば、最終的に人間が口にする家畜の育成にそもそも使用できないはずです。
ドライフードの便利さは、食事がフードだけで完結する便利さ、必要な栄養素がまとまっているというコンパクトさにあります。そのためチキンミールは成分調整に必要で、大きく貢献している原材料といえます。チキンミールについて、ネガティブな情報も多くありますが、客観的な情報を元に判断することが大切ですね。
食品添加物がフードの安全を守る
次に添加物を見ていきましょう。
”ビタミン類(A、B1、B2、B6、B12、C、D3、E、コリン、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸)、ミネラル類(カリウム、クロライド、セレン、ナトリウム、マンガン、ヨウ素、亜鉛、鉄、銅)、アミノ酸類(メチオニン)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリー抽出物、クエン酸) ミックストコフェロールで保存 食物繊維含、ビタミン、ミネラル含、ω-6脂肪酸含、カルニチン、ビタミンB群含、 DHA、EPA含、抗酸化成分含、α-リノレン酸含、中鎖脂肪酸、カリウム含、鉄分”
大事なのは酸化防止剤ですね。ドライフードは一定期間保存が効くことが前提の食べ物です。また犬の食いつくを良くするため、必要な栄養素を補うため、一定量脂質が含まれます。その脂質が酸化してしまうと、見た目の色、臭いが変わる上、その状態で犬が食べてしまうと健康に影響が出る場合もあります。
特に魚由来成分として、犬の健康に良いとされるEPA、DHAが添加されている場合、酸化防止剤は必須です。EPA、DHAは共に、とても酸化されやすい成分だからです。
いかがでしょうか?
食品添加物もネガティブなイメージを持たれることが多いのですが食品添加物は文字通り、食品に添加されることで、食品の安全を守っているのです。逆を言うと、食品添加物を加えない状態でペットフードが流通すると食中毒が頻発する可能性が高まります。ペットフードは長期保存がきく、便利な加工食品です。その便利さを享受するために、食品添加物は欠かせないものです。確かに食品添加物は100%安全かといわれれば、答えは「ノー」です。でも100%安全な食品ってそもそもありますか?と言う話なのです。完熟トマトですら、微量の毒性を持つ成分を含みます。でも量が少ないから、常識的な範囲内で食べる分には何の問題もありません。
食品添加物は食品の安全を守りつつ、健康に影響のでない量がきちんと計算され、使用されています。こうした背景を知らずにむやみやたらに悪いものと決めつけてしまうと、食の選択の幅がうんと狭められてしまいます。
ちなみにミックストコフェロールというのはビタミンEのことです。ビタミンEにもいくつかタイプがあり、異なるタイプを複数混ぜて使用することからミックストコフェロールと呼ばれます。適量であれば、犬の健康に影響を与えるものではありません。
「原材料表示」を読みとく鍵は「栄養素」と「添加物」
さて「原材料表示」は使用されている材料の多い順だということがわかりました。ではこの中身をどう読み解いていけば良いのでしょうか?読み解く鍵は「栄養素」と「添加物」です。栄養素名がたくさん表示されていますが、それら栄養素が犬の体にどう働きかけるか?を知るには栄養素の基礎知識が必要です。
これについては、取り急ぎ「栄養学」の解説書を1冊読めば理解できます。一般向けの書籍がたくさんあるので、書店で気にいったものをぜひ1冊手に取ってみてください。犬の健康を考える上で栄養についての知識はあった方が良いですし、絶対に損はしません。以下におすすめを2冊紹介しておきます。
食品添加物についてはこちらがダントツでおすすめです。
気になるあの成分のホントがよくわかる! 食品添加物キャラクター図鑑
フードについて知りたい方は、下記サイトも参考にしてください。
一般社団法人ペットフード協会
https://petfood.or.jp/
ペットフード公正取引協会
https://pffta.org/
愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)| 環境省
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/petfood/index.html

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